直(なお)(沢口靖子)は12歳の男の子を育てるシングルマザー。派遣社員として働くかたわら、シングルマザーの支援団体、“ひとりママ・ネット”の新米事務局長としても忙しい。
時は2002年の秋―――事務所はオンボロアパートの一角だが、代表の燈子(とうこ)(根岸季衣)と直の目標は大きい。児童扶養手当の削減を阻止するため、国会を動かそうというのだ。
ロビー活動や、ネットワークづくりに追われる日々。シングルマザーたちからは、ひっきりなしに悩みごとの相談が寄せられる。水枝(みずえ)(玄覺悠子)も初音(はつね)(枝元萌)も、そんな中で出会った仲間だ。彼女たちがつまずきながらも、それなりに自立していく様子は、直の励みになっている。
ある夜、見知らぬ男(吉田栄作)が事務所に現れた。妻子が突然消えてしまったという。話を聞くうち、直にはひらめくものがあった。この男には、DV(ドメスティックバイオレンス)の傾向があるのでは?
この夜から、直と男の奇妙な交流が始まった。
そして、2007年。国会へのロビー活動は、いよいよ正念場を迎えて―――



ちょっと前のことですが、新聞をひろげて驚きました。「声」欄に、うちの制作の安藤が投書しているではありませんか。母子加算の復活を求める、なかなかいい文章で、トップ掲載されているではありませんか。
母子加算とは、生活保護を受けているひとり親家庭に出る手当ですが、「もっと貧乏な人がいる」という、おかしな貧乏比べによって、当時は全廃されていました。
その支給対象者ではなかった安藤が、同じシングルマザーという立場から、仲間たちのために声をあげている。お気楽なおひとり様の私は、何やら衝撃を受けたのでした。
しばらくたって、テレビのニュースに驚きました。何と、安藤が突然アップになったではありませんか。あの聞き慣れた声が、院内集会で、児童扶養手当の削減方針を撤回するよう求めているではありませんか。
児童扶養手当は、収入の少ない母子家庭の命綱として機能してきました。ところがチビチビと減額され、5年間支給後は半額にされてしまう可能性もあるのだそうです。
「安藤、やるじゃないか」と思いつつ、感心ばかりもしていられません。彼女を安月給に甘んじさせているのは、他ならぬ社長の私ですから。
そして、思い出したことがありました。知人とワーキングプアの話をしていたとき、ある人がこう言ったのです。
「男の貧乏人が増えてから騒ぐなんて馬鹿げてる。シングルマザーは、ずうっとずうっとワーキングプアだった」
それやこれやの出来事が、私に「書け」とささやきました。
もちろん、貧乏だけの話ではありません。誰かが「もうくじけそう」と弱音をはけば、たちまち共感や応援のメールが届く。シングルマザーたちには、打てば響く支え合いのネットワークもあるのです。
貧乏にも友情にも「超」がつく。そんなシングルマザーたちの世界に挑んでみたいと思います。

永井愛(劇作家・演出家/二兎社主宰)

最近の作品=「かたりの椅子」「歌わせたい男たち」「書く女」「片づけたい女たち」
「やわらかい服を着て」「パートタイマー・秋子」「新・明暗」「こんにちは、母さん」「萩家の三姉妹」 等

紀伊國屋演劇賞個人賞/鶴屋南北戯曲賞/岸田國士戯曲賞/
読売文学賞/朝日舞台芸術賞秋元松代賞 などを受賞。